その日は疲れていたからなのか、誰も来なかったからお昼過ぎまで寝ていた。
 ホールにいるはずのクレスくん達がいなくて、甲板に出ればほとんどのメンバーが空を見上げて騒いでいた。なんだろう?
「お目覚めになりました?」
「パニパニ、どうしたの?」
「あれを…」
 小さな手で空を指すパニパニにつられ、仰げばそこにはなくなったはずのネガティブ・ネスト。
 …前よりも、大きい?
「『負』はなくなったはずなのに…」
「んー、あれはゲーデが作り出したものだから、またやんちゃでもしてるのかしらねぇ」
 不安そうに言うルー君にあきれ気味のハロルド。確かに、あれはゲーデが『負』を集めて世界樹への『蓋』とした場所。
 みんなが、心配そうな顔になる。これが、不安ってやつなのかな。
 そうしているうちにも、ネガティブ・ネストはまた一回り大きくなっていく。
「ディセンダー」
「うん、行こうか」
 セルシウスがじっとわたしを見て、なんとなく分かった。あれがあったら、みんなが苦しむ。あそこにある『負』もずっと。
「チャット、行ってくるよ」
「ローズさん…」
「依頼は私からだ。準備が出来次第、すぐに立つ」
 荷物をチェックして、グミもボトルも十分にあることが分かってわたしは頷いた。
 バンエルティア号を近づけてもらい、わたしとセルシウスは中に入っていく。

「くそ、なぜだ!?」
 間のひとつに入れば、ゲーデがいた。対峙しているのは巨大なサソリ。えっと、ドラピオンだっけ。
「ゲーデ!」
「ディセンダー!? それに精霊…」
「いったい、これはどういうことなのだ」
 セルシウスの目が細められる。
「俺にも分からん…ここは確かに俺が作った。だが、俺は一度世界樹に戻り、ディセンダーに浄化された。それ以降は俺は『負』を感じとることはできるが、作り出すことはできん」
 そう…『負』の化身であるゲーデは人々を苦しめた。でもそれは彼自身をも苦しめていたから、もういいよって言った。
 改心って言うらしい彼はもう『負』を生み出すことはできない。
「ならば、こやつは一体なんなのだ?」
「『負』だ。の『負』。だが、俺の言うことを聞かない」
 威嚇する魔物は生みの親であるはずのゲーデすらも分からない様子だった。各間にはその名前の『負』を持つ魔物がいる。
 先に進むには
「倒すしかないよね」
 これ以上暴れないように、大きくならないようにするためには。
 わたしは双剣を構えた。

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