世界の危機は去った。あふれ出した『負』も浄化した。
それでももう一度、わたしは世界樹に還らなくてはならない。
わたしの中にある、大量のマナを世界樹に還すために。
「彼から訊いた。『新しい記憶』、と呼んでいるそうだね」
「うん。『グラニデ』じゃない『別の世界』の記憶」
クラトスをちらと見ると彼は何も言わないし、瞼を下ろしたまま仁王立ちしている。
なんとなく分かる。今のわたしはとても危ういから、話したんだろうって。
介添人であるクラトスよりも、ディセンダーのことを知っているニアタだから、こそ。
「なんで、あるのかな」
「――予測でしかないが、今回の『負』を見つけるためではないだろうか」
「『負』を見つけるため?」
どういうことだろ? 確か最初に見つけた『負』は…
「『エクスフィア』、か」
「え、でもエクスフィアはロイドくん達の世界にしか」
「…おそらく、その存在を知らせるために、だろう。確か、世界樹もあるのだったね?」
「うん…」
『グラニデ』と、ロイドくん達の世界とクレスくん達の世界にある。それだけでも世界樹は、みっつ。
どれも同じだけど、違う存在。
「他の世界を知っているのは、その溝という『負』を埋めるためだろう」
「…溝?」
2人を見ても、よく分からない。
えっと、『新しい記憶』は『エクスフィア』を知るためなのと、違う世界に住むアドリビトムのみんなの仲を取り持つ…みたいなことでいいのかなぁ…?
「お前は、クレス達の世界にある月と私たちの世界の名前が同じであることを知っていた。そして、それはまったく別のモノであるとも答えを出した」
「……」
「他の者たちの世界の記憶があるのも、それの延長上なのだろう。関わろうとしたとしてもしていなくとも」
確かに、わたしは『別世界のゼロス』くんやリオン、リッド達に関することは知っていても、手は出さなかった。出しちゃいけないと分かっていたから。
「でも、なんでわたしが『新しい記憶』で知った言葉を口にしたら、みんなが元の世界の記憶を思い出したの?」
それが、一番気になるところ。
わたしがその存在を知っていればいいだけのはずだから。たとえ、『グラニデ』のクラトス達が『エクスフィア』を知らなくても、わたしが説明すればいい。
ニアタも、クラトスも黙ってしまった。そうだよね、すぐには答えられないよね。