たった一言で未来が決まる。
そんな歌があったな、なんて。
『新しい記憶』はまさしくそれだった。
討伐クエストに出向いたわたしとロイドくんとゼロスくん。
「経験値稼ぎ〜」
「えーもう目標到達したんだろ? 帰ろうぜぇ」
「ダークボトル使ってるから、あと30秒は無理じゃね?」
くたびれたーという顔のロイドくんにレモングミを投げて、接触した敵といざバトル。
火力はやや劣るけれど、コンボ出しやすいから好きだな双剣士。
秘奥義を出して、っと。
「あ、また敵出現ー」
「ローズ! 俺は待機させてくれ!」
「えー、ロイドじゃないとコンボ数稼げ無いじゃん」
「ゼロスにやらせろ! 働いてねーし!」
「ちょ、ロイドくんひどいっ」
「ゼロイは後方支援してもらってるんだけどー」
「だったら帰る、今すぐ!」
「あと10秒…」
「しつけぇ!」
言い合いしているうちに接触しました。ううん、まあTPもないし回復させるものもないし、ロイドくんには休んでてもらいますか。
「ちょっと待て、ローズちゃん! なんで俺さま秘奥義使わなきゃなんないの!?」
「オーバーリミッツを有効活用」
「ああ、もう! こんなときに限って硬い敵!」
わたしがゼロスの秘奥義見たいだけってのもあるんだけどね。
「ディバイン・ジャッジメント!」
……ディバインじゃない方も、なかったな。
一言で左右されるのは戦場。特に上に立つものに科せられる多くの命。
「ご苦労さまでした」
「でもこんな上司嫌だ」
「これは直接来ましたねぇ」
傷ついた様子もないジェイドにだから安心して言える、と言えば「褒め言葉として受け取っておきますよ」なんていう。そんなんだから嫌われるんじゃないだろうか。
「実力者の特権?」
「あなたがそう思うのならそうでしょう」
裏が読めない人間っていうのはこういうのなんだろうなって思った。
パーティを解散して個人クエストの報告に行けばこうだし。報酬がいいからついやっちゃうんだけど。
「何を考えて行動されているのかは聞きませんが、引き際というのは見極めが肝心ですよ?」
「それは大丈夫。あえて、だから」
「おや。てっきり怯えているのかと思ったのですが」
「不安であることは確か。でも向き合わないといけない問題」
未来を知ることは怖い。と、誰の言葉かは知らないけれど、カイル達のことに当てはめれば納得がいく。義務感にとらわれるあまりに謝った選択をしてしまうかもしれない。彼は過去を変えるのではなく、知るために時空を超えようとしたのだから。
そろそろロイドくんにそれとなく聞いてみようと思った頃だった。
重要任務がきた。
「場所は…獄洞門の奥。ということは三途の川?」
「すずさんから聞くところによれば、あそこにある櫻にまつわる逸話があるそうです。まああの場所は負が満ちていますし、出現するモンスターも近い存在ですからねぇ…」
「本当に幽霊かどうか確認してほしい、ってそれはすずの仕事じゃ?」
「行ったらしいんですが、いなかったそうです。でも彼女が帰ってきてからもそういった噂が後を絶たないとか」
幽霊がいるとかは信じるとか信じないというか、どういった存在なのか興味があるというだけ。依頼の内容を再確認する。
『依頼人:グランマニエの遣い
訳あって名乗れないのを承知していただきたい。
最近、門の奥に幽霊が出るらしい。本当なのかそれは害がないものなのか確認してきてくれ。
同行者:ロイド・アーヴィング、ゼロス・ワイルダー』
…ちょっとひっかかるな。
「チャット、これわたしが受けるよ。強制メンバーのパーティをお願い」
「引き受けてくれますか! よかった、気の強いかたが多いんですけどみんな幽霊ということに怯えまして…」
それはめんどくさいって人も中にはいるんじゃないのかなぁ。
「まあ1番の原因は選り好みする依頼人なんですけどねぇ」
はあとため息をつくチャット。依頼人が…選んでる?
「ではお気をつけて」
えーっとガルドが許す限りアイテムも買い込んだし、装備も強いやつにしたし、
「あとは…っと」
「ローズちゃん〜、俺さまローズちゃんの料理食べたいな〜」
「お前何言ってんだよ。帰ってきてからでもいいだろ?」
「ロイドくんは分かってないねぇ。ローズちゃんの料理はすぐ食べれないんだって」
「あのさ…分かってるの、2人とも?」
同行者のゼロスくんとロイドくん。あと1人は自由に選べるんだけど誰にするか迷ってる。うーん、サポーターとしてエステルかなぁ。
でもユーリも連れて行きたいし…。
「そんなに料理が食いたいんならパニールたちに頼めよ。ローズの金だろ」
「ローズちゃんの料理が食いたいの、俺さまは」
「ローズ、こいつにはライフボトルだけでいいからな」
あきらめた顔であっさりとそんなことをいうロイドくん。「ひでーよロイドく〜ん」なんて声をあげるゼロスくんを無視してわたしは鞄の中を確かめる。本気で傷ついてるわけじゃないから放っといても大丈夫。
「はい、2人ともライトマントつけて」
外していた装備を2人に渡してつけて貰う。残りのメンバー、本当にどうしようかな。
「ん? これから行くのって門だろ?」
「むしろ石化防止の方がいいんじゃねーの?」
「後からつけるのがめんどくさいから今ね。三途の川にいるの、予想的には光属性だから」
すずから聞いた櫻の逸話、門の奥にある三途の川、『新しい記憶』に繋がる幽霊。
正直、このメンバーは辛いと思う。だけど乗り越えなくちゃならない。
与えられた選択はひとつだけじゃない。
「じゃあリオン連れて行ったほうがいいんじゃないのか。あいつ、闇だろ?」
「う〜ん、リオンはレベル上げてないからなぁ〜」
「ま、俺さまたちだけでいいんじゃねぇか? 無理に4人パーティにしなくても」
そうなんだけどね。というより、なんで依頼人は分かってるんだろう。
「ロイドくん、草刈り機とカッパーマトック15個取って。宝石作りたいし」
「おう」
結構レベル上げたからさくさく進む。途中で採取してたから奥に行くまでは時間かかっちゃったけど。
さてと、セーブセーブ。
「いつも思うんだが、なんでセーブしたあとに回復するんだ?」
「勿体無いから」
「…あのな」
「さぁーて、幽霊とやらはあれらしいな」
わたしが世界樹の中に戻ったとき、出される2つの未来。
記憶を持つか持たないか。
今のわたしは記憶がある。けれど生まれたばかりのわたしは記憶がなかった。
どちらがいいかなんてわからない。だけどこの選択が間違っていなかったんだと実感している。
幽霊は…彼は、どう思っているんだろう。